今は亡き父が初孫のために腕を振るった祝い鯛

私の母は私が高校生のときに癌で他界しています。一人っ子だったので、それ以来父と二人暮らしになりました。いろいろ物思う年頃の娘にどう接していいのか、父はがんばっていたんだと思います。中でも「母親がいないから」と思われないようにと、卒業式や結婚式でもいろんな気配りをしてくれました。

黒豆
結婚して2年するころ娘を妊娠しました。母がいないので妊娠中なにかあったらいけないと、出産までは義母にお世話になりました。“逆”里帰り出産です。切迫流産で3ヶ月の入院、低体重児で生まれてきた娘は退院が通常より1ヶ月も延びてしまったりと、妊娠・出産にはハプニングの連続で義母には本当にお世話になりっぱなしでした。でもそんな事情も父には「母がいない」ことから来る心苦しさになっていたのかなと思います。
無事に生まれた娘と家に戻り100日した頃、父が言い出しました。「お食い初め、父さんに任せてくれないか」と。当時、娘の夜泣きがすさまじく、24時間体力・睡眠不足は私はお食い初めなど考えていもいませんでしたので父にお願いしました。子供が一生食べ物に困らないようにという願いをこめるお食い初め。よく食器には漆塗りの器などが使われていますが、父が用意してくれたのは離乳食時にも使える電子レンジ対応ベビー用食器セットでした。「お前も大変だろ。こういうほうが扱いがらくだもんな」という父ですが、その食器を探してデパートまで一人で出かけたそうです。当日の料理は父がすべて準備してくれました。父は板前なのです。鯛、お寿司などなどそれは豪華な料理がならび、義母・義父も大喜びで食卓を囲みました。
今リビングには写真が飾ってあります。豪華な料理を前に純白のドレスを着た首も据わらない娘を抱いている父の写真です。本来なら女親がすべきことをすべてやってくれた父。ありがとうの気持ちでいっぱいです。

お食い初め鯛の魚幸